―――音。
大きな力がぶつかる感触と共に、激しい音が聞こえてくる。
体が、信じられないほど重たい。
意識も、少し気を抜くと遠いところまで行ってしまいそうだった。
わかってる。
これはみんな、彼らの仕業なのだと。
『もう、時間がない』
焦りを隠すように呟くその人の、顔を見ることは、きっともう叶わない。
彼だけじゃない、あとの二人のことも、きっと。
『逃げるんだ』
どうしてそんなことを言うの?ずっと一緒にいたのに。
『生きろ。お前はこんなところで、こんなことで死んでいい人間じゃない』
そんなことはない。私は今日のために生まれてきたの。
『俺たちは知っている。お前がどれだけ強く、美しい者なのかを』
違う。知っているというならこの呪縛を解いて。共に戦わせて。
『「三魂」は、すべてお前に預ける』
そんなものは欲しくない。私が欲しいのは…
『域を抜けるまでは、何があってもお前を守る』
お願い、聞いて。
『東へ』
『お前には沈む日よりも』
『昇る日こそが、似合っている』
瞬間、力の入らない体が動く。
しかし自由は利かない、私は連れて行かれるだけだ。
ただ、使い魔の背に乗せられて、
誰にも触れられぬよう、結界に守られ、
誰にも見つからぬよう、幻術をかけられ、
誰にも追いつかれぬよう、風に煽られて、
私は遠ざかる。
大切な者の傍から。
守るべき者たちの傍から。
『赫の破片』を抱きし者の、運命から。
風を斬るような音ばかりが耳に入ってくる中、
もうずっと背後の方で、一際物悲しい気配を感じた。
感覚はそれを最後に、私は堕ちるように意識を手放した。
『、お前は、幸せになるんだ』
遠くで、そう呟く声が、響いた。
赫の破片 ―序章―
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